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山本夏彦・著「誰か「戦前」を知らないか」
インタビュー形式で(インタビュワーが誰かは不明。どこに書いてあるのだろうか?)山本夏彦が戦前の日本社会のディテールやノリを庶民の視点で明るく語っている本。

明るい語り口、というと聞こえはいいが、この山本夏彦という人はなんか偉そうだ。
年寄りが昔のことを詳しく知っているのは当たり前で、それをまるで名探偵ホームズが聞き役のワトソンに説明するかの如く偉そうに語るのはどうかと思う。
ただ戦前から生き抜いてきた老人の頭が固いのは当たり前の話なので、別に気にしなくていいかもしれない。

「戦前=暗くて不幸で軍国主義な時代」というステレオタイプな見方を改め、庶民の生活はそれなりの娯楽があって明るく、戦時中も空襲が始まるまでは食料にも困らなかったという話が伝えられている。
テクノロジーは未発達で、非常事態ではあったが人々の根本的な部分は変わっていないという話だ。
これは戦争末期の極端な時代の空気を反復拡大した既存のメディアへの批判ともいえる。
そういう内容なので、そことなく右寄りっぽい感じもするが、小林よしのりのような近寄りがたい狂犬のスタイルではない。

「大正12年の震災以後は映画は芝居と寄席を駆逐しました。明治時代は東京に寄席が百以上あった。それが活動写真館になった」P54


地震がエンターテイメントに影響を与えていたとは知らなかった。
ただし、活動写真館の弁士も、昭和6年のトーキー以降はクビになったという。
インフラ整備とテクノロジーの進化でメディア環境が変わっていくのはいつの時代も同じだ。
しかし、浅草の活動写真の名前が「ニコニコ大会」なのは偶然なのだろうか。

またアメリカで30年代にギャング映画が盛況だったのは、禁酒法の副作用だという。
そういえば、著作権法の抑圧は逆説的にP2Pの振興をしているような気がする。

戦前は個人の時代、戦後は法人の時代(P97)


戦前は銀行から金を借りることがなく、個人が銀行に貸すだけだったという。
現金の調達は金貸しと質屋だけだったとか。
また、大蔵省の指導で銀行の利息が談合によって同じになったとのこと。
侍は金儲けを嫌ったので、高利貸しは嫌われた。嫌儲の元祖だ。
昔は年末には必ず手形を現金化していたので、大晦日には電車が終夜運転だったという。

思ったのだが、現金=物質、手形(証券)=データと考えれば、今のネットワーク社会と余り変わらないのではないだろうか?

「女子大に行くのは器量の悪い娘」(P181)


戦前戦後で激しく変化したものにジェンダーがあると思うのだが、本書では教育面からの考察というか与太話が多い。

読んでいて思ったのだが、本来は妾に収まっているような人がフリーランスの状態になっているのが今の婚活女ではないだろうか?
ここでも経済的な問題がなくなると、却って不幸(周りが不幸扱いしてるだけで別に不幸じゃないと思うが)になる人が出てくるという現象がある。
こういうのもラッダイトというのだろうか。


問答集、年寄りの昔話トリビアコレクションなので、特に頭を使うようなところはない。
この山本夏彦という人は、知識が豊富なだけで、考察が深いというタイプではなさそうだ。
単に歳をとってるというだけで威張り散らかすタイプの人ではないかと思う。

しかし戦前・戦後で変わったもの・変わらなかったものが皮膚感覚でみえてくるのは面白い。
日本人のコアなところは変わらないんだ・・・ということが確認できたことには意味があった。
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