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ラジオの戦争責任
ラジオの戦争責任 (PHP新書 508)ラジオの戦争責任 (PHP新書 508)
(2008/02)
坂本 慎一

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アノニマスな社会に浸透するメディアの功罪について。
高嶋米峰、友松圓諦、松下幸之助、松岡洋右、下村宏という5人のキーパーソンから戦前戦中のラジオの社会的機能とその功罪について語った本。

この本も例によって、最初の高嶋米峰、友松圓諦の二人の解説は特に必要ない、というか冗漫に感じた。
二人とも名演説家で、今で言うところの人気パーソナリティーとか人気アナウンサーとかそういう立場の人である。

興味深いのは松岡洋右への記述だ。
太平洋戦争の骨格を作ったのは松岡で、その中でマスコミと国民が煽り合って戦争に突入したとの分析がなされている。
東条英機などは、むしろアメリカとの戦争回避を講じたところ“弱虫東条”とメディアに攻撃された被害者とされている。
(「アタシ、アベしちゃおうかな~」と同じだな)

「大東亜共栄圏」「五族共和」「満蒙は日本の生命線」などは全て松岡の広めた言葉だそうだ。
また「皇国」を公式文書や談話に使ったり、「生命線」という手相占いの言葉をdeadlineの意味で使い始めたのも松岡だという。
三国同盟とソ連中立条約を単独で成立させ、国際連盟を脱退させたのも松岡だ。
近衛文麿はアメリカに対する態度が余りにも挑発的過ぎるため、外務大臣である松岡に不信感を持っていたという。
当時の「米英撃つべし」というアメリカへの憎悪は、元を正せば松岡洋右とのことだ。

松岡は頻繁にラジオに出演し、大衆を煽りまくった。
国際連盟の場での「十字架上の日本」やスターリンに語った「道義的共産主義」など周囲を驚かすようなフレーズを多用したという。

新しいメディアの登場とともに、斬新なフレーズをトバして、人々を煽りまくるヤツには気をつけたほうがいいということだろう。
ハイテク詐欺師には警戒したい。

日本人は英語ができないから喧嘩が下手だ、といっていわれるが、松岡の場合は英語が出来るがために勝てもしない喧嘩を始めてしまったということらしい。

第五章では、玉音放送の根回しをした下村宏という人について解説している。
下村は最初、戦争肯定のラジオ演説を行っていたが、これは本心ではなかったという。

「世論は正しいという。しかしこれは大体において正しいというまでである」
(P211)



という発言は、「集合知は同時に集合愚である」というひろゆきの話と合致していて興味深い。
「みんなの意見は案外正しい」というのは嘘である。

下村が昭和天皇に御聖断を促すくだりも実にスリリングだ。
映画「太陽」を思い出してきた。
その結末として、8月15日正午、37分半の日本史上最も衝撃的なラジオ放送がなされるわけである。
下村は、太平洋戦争とは、アメリカと日本の戦いではなく、戦争をしたい者と平和を望む者の戦いであったと述べている。
ベトナム戦争と変わらないのか。
鈴木貫太郎内閣が恐れたのは、アメリカ軍よりも「一億玉砕」を叫び続ける国民だったという。

本書によると、戦時中特高に拷問されながら戦争反対を訴えた人よりも、軍部に妥協しながら終戦を成功させた人のほうが功績が大きいそうだ。
まあ、その通りだ。
世の中で一番重要なのはレトリックとタイミングなのだ。
悲しいが、これは本当の話だ。

最終章の考察も興味深い。
当時の日本は家屋が密集しており、プライバシーの概念が低かった。
日本人はデフォルトで匿名だったのだ。
「プライバシー」にあたる日本語は存在しない。
そんな日本の都市にラジオという強力なメディアが大音量で洗脳まがいの放送をはじめたのだからたまらない。

また、「ウェブ炎上」で荻上チキがエコーチェンバーと呼んでいたものが、本書では「集団的誘導作用」として紹介されている。
ラジオには通常この「集団的誘導作用」がないが、当時の密集した日本の家屋では、十分これが起きていたという。

これは今のネット環境と比べても同じことが言える。
ブログは個人のメディアで他人に影響されることは少ないが、2ちゃんねるではスレの空気に流されて考えが変わったりすることが結構あるのである。
恐らく、当時の日本人がラジオに感化されていった過程は、ちょっと前に「2ちゃんねるで真実を知った」とかいうバカが大量発生したのと同じではないだろうか?

前半部分はやや冗漫だが、資料の積み重ねを元に手堅くまとまっている。
話の内容が内容なので、語り口もカタいが、分析は明晰だ。
マスコミはもちろん、ネットも信用できないと思っている人にはお薦め。
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テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

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